2019年9月、UNICEF(国連児童基金)とWHO(世界保健機関)などは、世界の5歳未満児の年間死亡数を530万人(※1)と発表しました。2000年以降、発展途上国における保健サービスは向上し、子どもの死亡数は半減するなど大きな改善が見られますが、依然として11秒に1人、幼い命が亡くなっているという現実を直視しなければなりません。
この大きな課題を解決するソリューションの一つとして、現在「幼児の指紋認証」に大きな期待が寄せられています。
SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」に貢献する、日本電気株式会社(以下NEC)の取り組みをご紹介いたします。
誰一人取り残さない社会の実現には、身分証明が必要不可欠。
2018年に亡くなった15歳未満の子どもは620万人(※1)。うち530万人が5歳未満であることから、幼児期の死亡率の高さがわかります。
その原因の一つに、感染症があります。免疫のない子どもたちが感染症を発症すると、たちまち重篤化し、死に至るケースは少なくありません。感染症は本来ワクチンの接種により予防することができます。十分な予防接種を受けることさえできていれば、彼らは命を落とさずに済んだかもしれないのです。
これらの問題を解決するために設立されたのが、Gaviワクチンアライアンス(以下Gavi)です。Gaviは2000年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)にて結成され、各国政府、WHO、UNICEF、世界銀行、ワクチン業界などが参画しています。これまでに7億6000万人の子どもたちに予防接種を行い、1300万人の命を救ってきました(※2)。
しかし、出生登録がなく本人確認ができない子どもが想像以上に多いことから、依然として約2000万人の子どもが標準的なワクチンを受けられていません(※3)。世界中の5歳以下の子どもの4人に1人は身分証明がなく、アフリカのサハラ砂漠以南の「サブサハラアフリカ」と呼ばれる地域では、5歳以下の子どもの半分は出生届が出されていないとも言われています(※4)。そのため、ワクチン接種が必要な子どもが「どこに」「どれだけいるのか」を見出すことがそもそも難しく、最大の課題となって立ちはだかっているのです。
世界No.1の技術力で、幼児の指紋認証を実現。
身分証明がないという理由で、かけがえのない命を亡くしてしまう子どもたち。彼らを見出し、命を救うためにはどうしたらよいのでしょうか。
そこでGaviが注目したのが指紋認証でした。指紋という生体認証を本人確認の手段として用いることで「どの子どもが」「どのワクチンを」「いつ接種したのか」が把握できると考えたのです。指紋は生涯変わることがなく、登録や照合の手順も比較的容易なため、発展途上国にも取り入れやすい技術でした。
Gaviは、ネット環境が整わない発展途上国においても使い勝手が良いと評価される、イギリスのスタートアップSimprints Technology Ltd.(以下 シムプリンツ社)が開発した、指紋スキャナを採用しました。ただし、同ソリューションは大人の指紋は認証できるもののワクチンの主な対象となる5歳以下の小さくて柔らかい指先への認証には大きな課題を抱えていました。
そこで手を上げたのがNECでした。NECには、40年以上の指紋認証の歴史と米国政府機関主催のベンチマークテストで過去8回にわたり1位を獲得した世界No.1の技術があります(※5)。正確性とスピードに優れたNECの指紋認証技術を、耐久性に優れたシムプリンツ社の指紋スキャナを組み合わせれば、Gaviの活動を支える大きな力になると考えたのです。
NECの指紋認証による研究開発は、犯罪捜査への活用を目的に始まりました。その技術力は世界からも称賛され、現在は国内のみならず海外の警察・捜査機関にもNECの指紋認証が利用されています。
これらの技術を幼児向けに転用することはNECにとって初めての挑戦でした。
指紋そのものは生涯変わりませんが、成長とともに指紋のサイズは変わるため、「サイズ変化に対応していくこと」を想定した新しい仕組みが必要です。
また、発展途上国というデリケートな環境で生活する幼児の皮膚は荒れていることが多く、指紋が歪んでいたり、一部がかすれていたりしても、正確に照合できるような設計が求められました。
これまで40年間の歴史にはない新しい課題に対して、NECの担当者は地道で根気強い研究開発を行いました。
その結果、歪みやかすれに対して頑健な認証方式の開発に成功し、幼児指紋でも認証率99%という非常に高い精度を実現することができたのです。
取得した指紋情報は、NECのPrinciples(行動原則)に掲げているとおり「常にゆるぎないインテグリティと人権の尊重」を厳守し、プライバシー管理を含め適切に管理されます。
幼児指紋認証は、持続可能な社会に向けた大きな一歩。
2019年6月6日、NECは、Gavi、シムプリンツ社と開発途上国の予防接種向上を目的とした生体認証の活用に関する覚書を締結しました。3者は協働し、ワクチン普及を目的とした幼児指紋認証の実用化を目指すことで合意。各界のメディアは高い関心を持って調印式の様子を報道しました。
実用化に向けた実証実験は、2020年度にバングラデシュで1~5歳までの幼児約5000人を対象に、同年タンザニアでも同じく約1万5000人の幼児を対象に、1年かけて行われます。
さらに、幼児指紋認証はワクチン支援のみならず、様々な効果が期待されています。
未だ身分証明書を持たない人が10億人以上いると言われる現代。彼らに指紋認証という身分証明を付与することで、医療のみならず教育、金融などの社会保障を提供することにもつながります。
これは、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」だけではなく、目標16「平和と公正をすべての人に」に対する大きな貢献です。
子どもたちの命を救うことは、長い目で見ると「持続的な国家の発展」へ繋がります。健康に育った彼らが国を担い、さらにはその子孫を育む存在になるのです。
プロジェクトはまだ始まったばかりですが、確実に大きな一歩を踏み出しました。誰一人取り残さない社会の実現に向けて、NECの今後の活躍に目が離せません。
※1 UNICEF ニュースバックナンバー2019年9月19日
※2 Gavi PROGRAMMES & IMPACT
※3 UNICEF ニュースバックナンバー2019年7月15日
※4 UNICEF, ”Birth registration” December 2019
※5 米国政府機関主催のベンチマークテストの結果
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