豊かに見える現代の日本にも、生活が厳しく食事にも困っている家庭や、困りごとを誰にも相談できず苦しさを抱えている家庭がたくさんあります。
とりわけ子育て家庭では、育ち盛りの子どもが満足に食事をとれなかったり、必要な学用品が購入できなかったりと、子どもたちがつらい思いをするケースも。
生活に困窮している家庭を支えるための生活保護の制度や、子ども食堂、フードバンクなどの取り組みも行われていますが、そうした支援の手からこぼれ落ちてしまう家庭も少なくありません。
そのような、必要な支援を受けられずにいる子育て家庭に、食料品や学用品などの物資を届ける「こども宅食」という取り組みがあります。
その「こども宅食」の取り組みを支援し、全国に広げることを目的として、「一般社団法人 こども宅食応援団」が2018年10月1日に設立されました。
SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」のほか、目標1「貧困をなくそう」、目標10「人や国の不平等をなくそう」、目標11「住み続けられるまちづくりを」に貢献するこの「こども宅食応援団」の取り組みについて、ご紹介します。
豊かなはずの日本にもいる、貧困でつらさを抱える子ども達
平成28年度の厚生労働省の調査によると、日本の子どもの貧困率は13.9%となっており、7人に1人の子どもが貧困状態にあることがわかります。(※1)
なかでも母子世帯の貧困率は50%を超えるという調査結果もあり(※2)、豊かに見えている日本にも、多くの貧困に苦しむ子どもがいることがうかがえます。
日本は社会保障制度も充実し、様々な民間の支援活動も行われているので、生活保護を受けたり、子ども食堂やフードバンクを利用したりすればよいのでは、と思われるかもしれません。
しかし、様々な事情で必要な支援を受けられなかったり、受けることをためらってしまったりする場合があります。
例えば、仕事が忙しく休みを取れないため、平日に申請に行けないという人や、心身の障害や病気のため外に出ることが難しいという人がいます。
また、生活に困っていることを人に知られたくないので、子ども食堂やフードバンクは利用したくないと思う人や、生活保護はもっと困っている人が受けるものだから、自分は受けられないと考えている人も。
このように、様々な事情により必要な支援の窓口にたどり着けない人々がいるのです。
「こども宅食」で周囲に知られずダイレクトに必要な支援を
「こども宅食」は、支援を必要とする家庭に食品や生活用品などを定期的に届ける取り組みで、2017年に東京都の文京区で始まり、全国に広がり始めています。
これまで声を上げられなかった親子にも支援が届くよう、相談窓口で待つのではなく、こちらから手を差し伸べるアウトリーチを使ったアプローチを行なっているのが特徴です。
届ける物資は企業から提供してもらい、必要とする家庭にお届けします。
食品を届けるだけでなく、LINEを使って相談を受け付けたり、必要に応じてそのほかの支援につなげたりというサポートも行います。
申し込みもスマホとLINEで簡単に受付ができるので、支援を受けることを周囲に知られたくない方や、忙しい方でも手続きしやすい仕組みになっています。
地域の特性や事情に合わせて支援体制をアレンジするので、受付方法や支援体制が異なっている場合もありますが、基本的に、周囲に知られずダイレクトに支援が必要な家庭とつながれるというのが「こども宅食」が利用されやすい理由のひとつです。
広まれ「こども宅食」!地域の支援団体に伴走する「こども宅食応援団」
こうした「こども宅食」の活動を全国で実施できるよう、地域にあわせた形で必要な支援を提供するために「こども宅食応援団」が設立されました。
その役割は主に次の3つ。
- こども宅食事業を効果の高い、より良いものに育てること
- 地域の自治体や民間団体がこども宅食事業を立ち上げて、運営する際、必要な応援メニューを提供すること
- 日本全国の「こども宅食」を必要とする家庭すべてに継続して支援が行きわたるよう、財源を確保できる事業モデルや仕組み、制度を作ること
「こども宅食応援団」では単に完成した「こども宅食」というフォーマットを全国に展開するのではなく、その地域に合った仕組みにアレンジすることで、より良い仕組みが生まれれば、すぐにまた全国に広がっていくと考えています。
2020年8月4日現在、「こども宅食応援団」が連携して13地域、19団体が「こども宅食」を進めています。
たとえば、長崎市では「つなぐBANK」をスタート。
こちらは、家庭に物資を届けるのではなく、受け取りに来てもらうスタイルです。 長崎市は車が入れないような細い坂道が多く、配達する手間や料金が増えてしまうため、こうしたスタイルになりました。受け取りの際には、周囲に利用がわかりにくいよう、配布ごとに異なる場所を用意するなど工夫されています。
宮崎県三股町では「みまたん宅食どうぞ便」が広がりを見せています。
支援する側・される側という関係性を気にせず、一般の宅食サービスのように気兼ねなく利用できるよう、チラシやWebサイトのデザインは親しみやすく明るいイメージで作成。
地元の農家や企業など地域の人々が、その名前の通り「どうぞ」と応援する気持ちで楽しく取り組まれています。
また2020年5月には国の第二次補正予算に「こども宅食」が組み込まれ、2020年8月には「こども宅食」の制度化検討に向けた「こども宅食推進議員連盟」が設立されるなど、国も巻き込んだ事業の広がりを見せています。
コロナ禍だからこそ高まる「こども宅食」の必要性
現在、コロナ禍により外出自粛やソーシャルディスタンシングなどが求められ、社会の在り方が大きく変化しています。
そんな中、就業先の事情により収入が減少したり途絶えたりする、感染によって仕事を失う、精神的な不安が高まることで外出が難しくなるなど、もともと支援が必要な家庭にさらにリスクが増えることが予想されます。
これからは、「こども宅食」のようなアウトリーチ型の支援を積極的に進めて、リスクを抱える家庭との関わりを保ち、必要な支援を適切に行うことがより重要になるでしょう。
「こども宅食応援団」の支援によって日本全国に「こども宅食」が広がり、生活が苦しい家庭の子ども達の顔に、もっと多くの笑顔が浮かぶ日も遠くないかもしれません。
※1 厚生労働省「平成28年 国民生活基礎調査の概況」
※2 独立行政法人 労働政策研究・研修機構「第5回(2018)子育て世帯全国調査」結果速報
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