九州の最西端に位置し、大小さまざまな140の島々からなる長崎県五島列島。
白く美しい砂浜は“日本一”と謳われ、一度は訪れてみたい観光名所として名前を記憶している人も多いでしょう。
しかしその美しい海は今、深刻な課題を抱えています。海の砂漠化とも言われる「磯焼け(=海藻がなくなる現象)」です。海藻が消失することで海の生物は激減し、漁業は大きな打撃を受けています。数十年前はもっと魚が取れたのに…。このままでは取り返しのつかないことになる。
そこで立ち上がったのが、五島列島で魚屋を営む「金沢鮮魚」です。
金沢鮮魚は「磯焼け」の原因となる、海藻を食べ尽くす害魚・ウニ、規格に合わず捨てられてしまう魚を原料にした魚醤油「五島の醤(ごとうのひしお)」を開発。2020年12月には長崎県水産加工振興祭水産製品品評会において「水産庁長官賞」を受賞し、五島列島の豊かな海洋資源を守る「循環型調味料」として評価されました。
今回は、SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」に貢献する「金沢鮮魚」の活動にいてご紹介いたします。
海の負の循環に一石を投じた、循環型調味料「五島の醤」
誰しもがうすうす気づいていながら目をそらしてきた事実があります。それは「水産業者が海を削り取ることで利益を上げ、消費者がそれを後押ししてきた」ということです。美味しい魚が安価で手に入る裏には、効率性を重視し、稚魚から成魚までを根こそぎ乱獲する漁法が盛んに行われ、商品価値のない多くの魚たちが廃棄されてきました。
その結果、「2048年には海から食用魚がいなくなる」とアメリカの科学雑誌「Science」の論文で発表されるほど、魚は著しく減少しています。農林水産省が発表している統計(※1)からもその現状が読み取れるでしょう。
魚の減少は水産業者の収入減に直結します。漁師を志す若者は激減し、また夢のない職業を子に継がせたくないという現役漁師が多いことから後継者問題にも発展しています。
このような現状を打破していこうと、金沢鮮魚では「人も海も喜ぶ循環をつくること」を使命に掲げ、様々な活動を実践しています。
その代表的な取り組みが、循環型調味料「五島の醤」の開発です。磯焼けの原因となる食害魚や、規格外で捨てられる魚を高付加価値な商品にすることで、海の環境を改善し、漁師の収入安定にも貢献しています。さらに製造工程で絞るカスは、すっぽん養殖業者や農家へ提供し、廃棄物を排出しない製造法を確立しました。
5年の研究を経て作られた「五島の醤」は味にもとことんこだわっています。
五島産のつばき酵母を使用することで魚醤油独特の臭みを抑えながら豊かな香りを出すことに成功し、さらに人工香料や人工着色料を一切使わない完全無添加食品で、ベビーフードにも使える安心・安全な調味料に仕上がっています。
『魚を大量に乱獲し、余ったり規格に合わなかったりするものは廃棄し、結果海から生き物がいなくなり、漁師が立ち行かなくなる』という負の循環に一石を投じ、現在の利益を未来の海へ還していく取り組みです。これを全国規模で実現させることができれば、海の環境が改善され、漁師の収入も増え、消費者に新しい食体験を提供する、という素晴らしい好循環が生まれます。
「脱プラスチック」「丁寧な仕立て」で、海洋汚染&フードロスにも対応!
海に携わる者として「海洋汚染問題」を無視することはできないでしょう。
金沢鮮魚では、海洋ゴミとして一番問題のプラスチックをそもそも出さないようにするため、配送用のボックスを発泡スチロールから耐水性ダンボールへ切り替えました(※2)。
さらに魚の鮮度を保つための真空袋や保冷剤袋も水溶性への切り替えを検討中です。
現在の水産業界では鮮魚配送に発泡スチロールを使うことが常識のため、画期的な取り組みと言えるでしょう。
さらに驚くべき技術が金沢鮮魚代表の金澤竜司氏が40年のキャリアの中で編み出した「金澤仕立て」です。仕立てとは、鮮度を維持し、魚を美味しく長持ちさせる術のことです。鮮魚は通常、配達後2~3日が生食の限度ですが、「金澤仕立て」を施すと臭みが取れ、身質がしっかりするため、1週間、丁寧に扱えば1ヶ月後でも刺し身で食べることができるというのです。
これにより「食べきれなかったから捨てる」「賞味期限が切れたから捨てる」というフードロスの削減が期待できます。
「人も海も喜ぶ循環」を日本中・世界中が憧れるモデルケースにしたい
「これらの活動を通じて、今後の海のことを考えるきっかけになれば嬉しい」と代表の金澤氏は語ります。
離島の一魚屋が必死に活動しただけでは、広い海の豊かさを守ることは難しいかもしれません。しかし、これが各県・各市区町村・各企業へ広がればどうでしょうか。
金沢鮮魚では、「人も海も喜ぶ循環」の実践が五島列島に留まるのではなく、各地域の課題を解決するモデルケースになることを目指しています。
素晴らしいモデルケースを示すことは、最終的には世界の水産業を変えていくことにつながります。大きく言えば、海を守るためには全世界の水産業者の協力が必要不可欠です。
まずは日本の水産業から負の循環を断ち切るべく、水産業者、自治体、飲食店といった全てのステークホルダーが一体となって「人も海も喜ぶ好循環」へ変革していくことが第一歩でしょう。
海の豊かさを守りながら、漁師や魚屋、飲食店、消費者全てに還元される明日を目指して、金沢鮮魚の本当の挑戦は始まったばかり。今後の活躍に期待大です。
※1 「漁業・養殖業生産統計」(農林水産省)https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h29_h/trend/1/t1_2_2_1.html
※2 2021年4月時点で、全体の約30%を耐水性ダンボールに切り替え済み。
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