1961年生まれ。UCLA大学でMBAを取得後、JPモルガン、ゴールドマンサックス、米ヘッジファンド、ムーアキャピタルを経て2001年にシブサワ・アンドカンパニーを設立。自ら設立したコモンズ投信で、持続可能な取り組みを続ける企業のファンドを運用する。幕末-明治の武士・官僚・実業家であった、渋沢栄一の玄孫にあたる。
現在、投資家が投資先を選ぶ際の指標として「ESG投資」に注目が集まっています。
このESGとは、企業が環境や社会などを考慮しているかどうかを判断して投資するか否かを決めるというもの。
SDGsにおいても持続可能な社会を目指すために、こうした環境や社会に貢献する企業を投資などによって積極的に支援してくことが大切です。
そこで今回は、実業家であり優良な企業への長期通しを通じて、家族の未来支えるというESGに通じる施策を長きにわたって続けてきたコモンズ投信株式会社創業者の渋澤健氏に、持続可能な未来を目指すための投資についてお話を伺いました。
そもそも投資とはどのようなもの?
近年SDGsと併せて語られることが多いESG投資は、Environment(環境)、Social(社会)、そしてGovernance(統治・管理のプロセス)を重視する投資方法です。
SDGsの文脈でESG投資が語られるのは、ESG投資が企業の創造的な価値を高め、環境や社会に対する責任を投資を通して示すことで、SDGs達成に向かうその一つの手段となるからです。
さてESG投資について考える前に、そもそも「投資とは何か」と言うことについて考えてみましょう。
日本ではその投資という文字から、お金を投げるようなギャンブル性の高いものであると考えがちですが、英語で投資はinvestといいます。
Vestは、日本でも通じる服のベストのことです。
英語圏での投資は、自分のベストのポケットに、自分の見えない場所、生活圏の外にある成長を呼び込むためのチケットを入れるというような意味合いを持っているものなのです。
特にアメリカなどでは、投資家だけでなく確定拠出年金(401K)などを通じて、定職を持つ良識な人が、ごくごく当たり前のこととして投資を行っています。
アメリカというのは非常に格差の多い社会で、銀行口座にわずかなお金しか持っていない人もいれば、巨万な資産を持つ人もいます。
こうした格差があっても、自分の資産の有無にかかわらず、未来のために積み立てや投資を行うことが多くの日常慣習になっています。
日本と海外の、行動とお金に関する考えの違い
少し話が外れてしまうのですが、日本人はお祭り好きですよね。
日本では古くから神様は山から田に降りてくると考えられており、それを迎えるためにお祭が行われます。つまり、神様は人間のために山から降りてくるわけです。神社や仏閣でお願いをするときも、自分のお願いを神様が聞いてくれると思っていますよね。
西洋とは違い、現世利益的に神様を捉えていたり、罪が許されやすい社会にいます。この日本人のおおらかで、伸びやかな情緒は魅力ではあるのですが、その反面、利他の行為などには欠けるところがあるようです。西洋の宗教と違って、常に神が自身の行いを見ているわけではないので。
例えば、日本人は貯金が大好きです。現在、日本国内の預金高は1000兆円。タンス預金だけで、50兆円とも言われています。50兆円というとピンと来ませんが、1万円札を50兆円分重ねていくと、500km、宇宙ステーションの近くまで到達するとてつもない金額です。
これだけのお金が、活用されることなくタンスの中に眠っている。
このタンス預金は何か困ったことが起きた場合に備えて取っておく、いわばお守りです。「現金さえあれば、自分や家族だけはなんとかなる」これ、自分さえ、身内さえ良ければいいと考えるような少し利己的な考えであるように見えます。本来であれば、お金は経済社会の血液ですから投資や寄付を通じて循環させるべきです。
ESG投資は子ども達の未来を選ぶ投資方法
現代の日本はある意味、「楽」な社会です。多くの人が、とりあえず今日や明日の心配はせずとも暮らしていけてしまうせいで、人々は「今までの生活が続けばいいや」とつい思ってしまいます。
でも、よく目を凝らしてみると、社会に循環するお金は増えておらず、また人口ピラミッドから見ても、今までの成功体験の延長線上では未来の成長に期待はできません。
こうした社会で、持続可能な未来を求めていくためには、なんらかの形で外から成長を呼び込むしかありません。
日本とそして世界は、20世紀のようにむやみに発展・成長することがもうないでしょう。
成長は大事ですが、もっと大切なのはその成長が持続することにあります。こうした意味で、成長を持続させるESG投資が重要となってくるわけです。
投資には確かに、資金を得るという目的があります。
ただし、ESG投資に的を絞った場合、「お金儲け」というだけの観点からは必ずしもメリットがあるとは言えません。
私が長期の投資に目を向けるきっかとなったのは、息子が生まれたことです。
「この赤ん坊はいつか手元を離れる時が来る」と考え、子どもの未来のチャレンジを応援するために積み立て投資を始めました。このような未来志向な長期投資と持続可能な価値創造に努力する企業への投資は相性が良いと感じました。
機関投資家が利益を優先して追求する理由は、報告義務があるからです。ただ、そうした数字を求める投資家であっても、最大限な、つまり長期的な利益追求を追求する上で、ESG投資を意識します。
ESG投資は、未来のための投資です。
それは自分が生きる将来、そして自分の子どもや孫世代が生きる未来が良いものであるように、投資を続ける行為なのです。
お金をたくさん儲けて自分だけが裕福になったものの、環境汚染は深刻で、治安は悪く、差別が横行している。そんな未来の世界を私たちは望むでしょうか。
また、もしその将来に自分が存在していなくても、子どもたちがそんな社会に生きて欲しいと思うでしょうか。
ESG投資は、持続的な価値創造を目指し、自分が見ることのできない社会に希望を残す、その一石を投じるという意味で価値のあるものです。
投資における、数字の追求・利益の追求と、環境や社会へ良いインパクトを要求する投資は矛盾しているように見えます。ただ、その矛盾を両立させることとで、新たなイノベーションや価値は想像されるのです。
ESG投資を始める上で重要なことは?
では、これからESG投資を始めようという方は、どのように投資を選べば良いのか。最も手軽なのは投資信託を活用することでしょう。
ただ、現在多くの運用会社がSDGsやESG向け投信を行なっていますが、その目論見書をみると、具体的な記述がなく一言「ESGに配慮します」と書いてあるだけというファンドもあります。
これからESG投資を始めようという方は、まずは自らのお金を任せる投資信託がどのような手段、プロセスでESGを重視する企業に投資するのかを確かめる必要があります。
金融商品に関する目論見書は、決して読みやすい文書ではありませんが、自分のお金を任せ、また未来に向けたESG投資を目指そうというのであれば、一度目を通し、複数のファンドの文書を読み較べることをお勧めします。また本当に志ある運用会社であれば、素人向けのわかりやすい文章で、言葉を尽くして目論見書を書き上げているはずです。
このあたりも、投資信託の運用会社を選ぶ上での重要な判断基準となるでしょう。
企業選びにおいては、見えない価値こそが大切
自らESG投資先を選ぶ場合、確認すべきは財務的な指標だけではなく、非財務的な見えない価値が重要です。
もちろん財務的な数字は、その企業が過去に取り組んだ成果の現れですので参考にはなりますが、それはあくまで氷山の一角。しかしESG投資の観点で見た場合、10年、20年、30年後に世代を超えて、企業が存続し社会に価値を生み出していけるかどうかを見る必要があります。
持続し、発展を続ける企業の価値創造の源は、非財務的な見えない価値です。
それは属人的なものであったり、トップの言葉が組織の隅々まで行き渡っていたり、企業文化を理解し、共感している社員がいるかどうかといった点にも現れます。
私の携わる「コモンズ30ファンド」でも投資先の企業選びの際には、この見えない価値に焦点を置き、複数の投資委員会がそれぞれの視点から判断して、会議にかけて満場一致を条件として、決定しています。
企業の見えない価値を外から判断するのは難しいものですが、役立つものがあるとすれば、それは統合計画書です。会社の価値創造の総合的なストーリーを描いている作品と考えれば良いと思います。
これもファンド目論見書と一緒で、企業のステークホルダーに向けてわかりやすく、明確に、対話の意思を持って書かれているかが重要です。
統合報告書を元にステークホルダーと対話を試みる姿勢は、ESG投資を考える投資家を呼び込み、SDGsやその先に続く、企業の持続的な発展につながる有用な方法といえるでしょう。
SDGsは目標、ESGは手段
繰り返しにはなりますが、ESG投資は持続可能な未来に向けた投資、つまり手段です。
流行だから行うとか、誰かに言われたから始めるといった性格のものではありません。
明日お金が儲かれば良いという思いではなく、自分の子どもたちの未来を見据え、本当に大切な利益は何かを考えて行うことが大切です。
これはSDGsで謳われる、持続可能な社会を目指す試みでもありますし、「誰一人取り残さない」というSDGsを達成するための手段であるとも言えます。
投資という行為そのものの理想形でもあると言えます。
ESGやSDGsという言葉を使わなくとも、持続可能性を模索し、社会に良い影響を及ぼす企業を選び、未来を選択していくというのは、投資を行う者として当たり前のことなのです。
皆さんには、ぜひそのような良識ある投資家となってほしいと、願っています。